「あなたという人は……。本当ならば小さな子供の相手など、面倒な時もあるでしょうに。」
直正は頭を掻いた。
「叔母上は、一衛がいつも後を追ってばかりいると心配なさいますが、わたしは迷惑だと思ったことはありません。身体が小さくて病気がちだけど、一衛はいつもわたしに追いつこうと一生懸命です。直正はそんな一衛をいじらしく思います。それに実を言うと……わたしは一衛がいるから何でも励めるのです。」
「そうですか?わたくしは、一衛が直さまにいつも迷惑をかけていると思っておりますよ。」
叔母は不思議そうに尋ねた。
「いいえ、そうではありません。わたしは、常に一衛にいいところを見せたいのです。おかしいでしょう?一衛の自慢の直さまで居られるように、藩校でも必死に励んでいるのですから。でも、この事は叔母上だけに打ち明けました。誰にも内密にしてくださいね。他言無用ですよ。」
「まあ……」
明るくそう言うと頭を下げて、直正は自宅へと向かった。
「殿のめでたきお話ですか?もしかすると、父上の良
bicelle 好用き話とは、若殿さまの御婚儀のお話ですか?」
「知っておったのか?」
「はい。今日、教授方からお話を伺いました。皆さま、とてもお喜びで、わたしたちも、お祝いに歌を作って差し上げたいと話をしたところです。」
「つまらぬの。こう言う時は、
聞くような顔をするものだぞ。」
「はい。考えが及びませんでした。」
「せっかく早く教えてやろうと、急ぎ帰って来たというのに……」
露骨に興を削がれた顔で、拗ねた父が手酌を重ねる。
子どものようだと、内心直正は苦笑した。
「それでは父上、お教えください。若殿さまは、どこのお姫さまをお迎えになるのですか?」
「うむ。では教えて進ぜる。前の大殿さまの御息女、敏姫さまとの婚儀じゃ。」
「そうですか。やはりめでたい時のしいでしょう?」
「そうだな。一人酒も美味いが、連れと呑むのは、より美味いからな。付き合え、直正。」
「頂戴いたします。」
あっさりと破顔した父は、内心、敏姫ではなく他藩に嫁いだ養女の照姫という名の姫君を哀れに思っている。
藩の事情を直正に話しても仕方のないことだが、敏姫ではなく、容保より三歳年上の養女の照姫という利発で美貌の少女が、容保の正室になるものだと直正の父も藩の重役達も思っていた。
おそらく照姫自身も、幼いころからお付きのも
HKUE 好唔好のに、いずれは会津の殿さまの正室になるのですよと言われ、松平家に養女に入ったのは容保の正室になる為と思っていたに違いない。
思いがけず生まれて来た敏姫は、前藩主の実子であったから、支藩から養女に入った照姫の立場は危うくなった。
成長した敏姫が正室となったため、照姫は他藩に嫁いだが、子を成すことなく離縁している。